2017年4月23日日曜日

Spread Your Wings - Queen 和訳

Spread Your Wings - Queen 和訳


クイーンのメンバーの中では地味で、目立たないものの、安定したベースのジョン・ディーコン作。
邦題は「永遠の翼」と書いて「とわのつばさ」と読むんですね。ずっと「えいえんのつばさ」だと思っていました。

ねこあるきの勝手な憶測ですが、おそらくこの曲はディーコンの生い立ちが影響していると思います。

電子工学の道を進み、秀才でマネジメントにも強い、堅実なディーコン。
初めて楽器を手にしたのは7歳、とは言っても、プラスチックのギターで、演奏するというよりは、首から下げるだけで満足しているような子どもでした。

大人しくて、引っ込み思案、誰の印象にも残らない。

ディーコンが10歳か11歳のころ、父親が42歳で急逝し、ディーコンはショックが大きすぎて、より一層、しゃべらなくなってしまいます。

父親を失ったことで、母親は育児を一手に引き受け、当然ながら堅実な道を歩くよう教え諭します。

12歳の時、新聞配達のバイトをして、本物のギターを購入。
14歳の時には学業に専念しつつ、片手間でバンドを組み、ライブをするという、音楽には趣味の範囲でしか手を出していません。

パブでライブをやる、という話が出たときは、母親が「パブに行ってライブなんて、とんでもない!」と激怒し、結局パブのライブはやめさせます。

ロンドンへ、電子工学科へ進学するに合わせ、持っていた楽器や機材の一切を置いて行き、バンドのメンバーは、ディーコンはもう音楽はやめたと思いました。


そんなディーコン少年が、クイーンのメンバーとして歩き出すには、大きな心の葛藤があった事でしょう。

「永遠の翼」の曲中に登場する人物、「サミー」も「支配人」も、そして「バー・エメラルド」も、ディーコン自身の中に存在しているのではないかと、思えるのです。


歌詞は難しくなく、訳しやすいので、ちょっと遊び心で物語調に手を加えました。

▼永遠の翼、スプレッド・ユア・ウィングスのPV。
めちゃくちゃ寒そうですね。





"Spread Your Wings" 和訳



Sammy was low
サミーは沈んだ気持ちで膝を抱え

Just watching the show
雑然と、酒瓶や荷物が積まれた暗い裏方から
煌びやかな表舞台のショウを、ただ眺めていた

Over and over again
何度も何度も、仕事も時間も忘れて

Knew it was time
その時が来たと

He'd made up his mind
今こそ思い立つ時だと分かっていた

To leave his dead life behind
この生き甲斐のない、日陰の人生に別れを告げなければ


His boss said to him
しかし今日こそは、と思いつつ
支配人の、サミーの雇い主が言うことに反論できず、
無為に時間だけが過ぎていく

ぼんやり座り込むサミーの前に、支配人が足音を立ててやって来て
見下ろしながら呆れ顔で言う

"Boy you'd better begin
「お前なあ、いつまでそうやっているんだ

To get those crazy notions right out of your head
また悪い癖が始まったのか
悩むくらいなら、バカなことを考えるのはよせよ

Sammy who do you think that you are?
サミー、聞けよ
人間には身の丈ってもんがあるんだ
お前は自分をなんだと思ってる?

You should've been sweeping up the Emerald Bar"
いいから、さっさと仕事に戻れ
この、バー・エメラルドの床掃除が、
今お前がやるべき現実だろうが」


急き立てられ、重い腰を上げ、
床を掃くブラシの音を遠くに聴きながら
サミーはまだ煮え切らない思いを、反芻していた


Spread your wings and fly away
勇気を出して、翼を広げて飛び立つんだ

Fly away, far away
風を切って、君が望む高みへと飛んで見ろよ

Spread your little wings and fly away
君の小さな翼を広げ、大空へ乗り出そう

Fly away, far away
高く、どこまでも高く

Pull yourself together
だから、しっかりしなよ

'Cos you know you should do better
誰が何を言おうが
自分が一番、最善の道を分かっているはずだろう

That's because you're a free man
自分を縛っているのは自分だと気付きなよ
君はいつだって自由なんだ


He spends his evenings alone in his hotel room
サミーは仕事が終わると、決まって独りで夕暮れの中
借りた部屋の中で過ごした

こんな毎日をいつまで繰り返せばいいのか、と
何度思ったことだろう

Keeping his thoughts to himself, he'd be leaving soon
分かってる、誰に話したところで一歩を踏み出すのは自分だ
こんな所で腐ってる場合じゃない
今すぐにでも、夢を追いかけるんだ

Wishing he was miles and miles away
想像は鉛のように重い体を抜け出し
彼方へと想いを馳せる

Nothing in this world, nothing would make him stay
よどんだ瞳は活き活きと輝きを取り戻し、
彼を止めるものは何もない、押し留めるものなど有りはしない


Since he was small
サミーは周りと比べて背も低く、
声も小さいみそっかすだった

Had no luck at all
運にはことごとく見放され

Nothing came easy to him
何をやるにしても、困難が付きまとっていた

Now it was time
根拠も自信も無いけれど
きっと何もしないままなら、先は見えている

He'd made up his mind
だから、今こそ変わらないといけない時だ

"This could be my last chance"
「たぶん、この機会を逃したらあとは無いだろうな」
漠然とした焦燥感が彼を奮い立たせる

サミーが力強く顔をあげた瞬間、目に飛び込んできたのは
腰に手を当ててしかめっ面をした支配人だった

His boss said to him, "Now listen boy!
サミーを挫くかのように、
ため息と苛立ち交じりに支配人は語気を荒げた
「今日という今日はさ、おい、頭に叩き込んでおけ!

You're always dreaming
どうでも良い大きな夢とやらに、いつもふけっているけどよ

You've got no real ambition, you won't get very far
実際どうなんだ、お前にやり遂げるだけの度胸なんかあるか?
何か実績でもあるか、無いだろ?
お前の描く夢には程遠いんだよ

Sammy boy, don't you know who you are?
サミー、なあ、俺はお前を思って言ってるんだ
高望みしすぎなんだよ
地に足付けて生きるのが真っ当だと思わないのか?

Why can't you be happy at the Emerald Bar?"
夢なんて追っかけて、失敗したら目も当てられないって
お前もよく分かってるだろ

仕事が無い奴だっているんだぜ
ここのバー・エメラルドで働けるだけでも充分だと思うがな
お前は恵まれているんだ、いい加減分かれよ」

サミーはこぶしを握り、言い返すことも出来ずうつむいた


So honey
ねえ君、自信を持って

Spread your wings and fly away
その背中には翼がある
広げてみなよ、空へと飛び立つんだ

Fly away, far away
高く、遠く、君の望むところへと

Spread your little wings and fly away
小さな翼を広げて、一歩踏み出してごらん
真っ逆さまだなんて怖がらないで

Fly away, far away
風を味方にして軽やかに舞い上がるから
そう、どこまでも遠くへ

Pull yourself together
大丈夫だよ、自分を信じて

'Cos you know you should do better
自分が為すべき最善のことを、君は分かってるんだろ

That's because you're a free man
そして君はいつでも自由だから

Come on, honey
さあ、行こう



Thank you for your request,Mr.T.

以上です。
といいつつ、続きがあります。

追記:
歌詞には無い部分で、わずかではありますが。
最後の「Come on,hohey さあ、行こう」のあと。


I'll be with you
僕が付いている


が、フレディのアドリブでしょうか、聴こえます。
これがBBCバージョンになると、


Let me take you 
僕が連れて行くよ


に代わっています。
こちらはハッキリ聴こえるので、フレディからのメッセージなのかな、と思います。


以上です。



▼字幕付き動画を作りました。
画質と、音質の良いものをあれこれ組み合わせました。






ディーコンはアルバム「クイーンⅡ」が出る1974年まで、学業を続けています。

ミュージシャンとして生きる決意をした心境の推移は、いかほどだったでしょうか。

そして、ボーカルのフレディ・マーキュリーも45歳で早逝し、ディーコンは実質引退をしています。

自身の父親と同じくらいの年齢で亡くなったフレディが歌う「永遠の翼」を、ディーコンは今、どんな想いで聴いているのでしょう。



おまけ

ディーコンの心中を推し量っていたら、なんだかしんみりとしてきたねこあるきです。
フレディーの声で励ます「いつだって君は自由なんだ」あたりが、心に沁みます。

気分を変えて、PVに関するちょっとしたコラムを。


雪の残る、いかにも寒そうな「Spread Your Wings 永遠の翼」のPVが撮影されたのは、ロジャー・テイラーの家の庭です。

冒頭でベースを抱えたままピアノを弾いているのはディーコンですが、実際に演奏したのはフレディ。

フレディは薄汚れた手袋をしていますが、これはクイーンのローディー(付き添いでミュージシャンのお世話をする人のこと)、ピーター・ヒンス氏の持ち物を奪って着用しています。

ピーター・ヒンス氏のニックネームは「Ratty ラッティ」で、PVをよくよく見ると、消えかけたマジックで手袋に"Ratty"と書いてあります。

ロジャーもフレディも手袋と革ジャンを着用していますが、ディーコンとブライアン・メイは手袋もできず、スタジャンだけ。
寒さのあまり、途中でディーコンは上を向いて洟をぬぐっています。

お寒い中、お疲れ様です。


▼上へ戻るのが面倒な方へ、もう一度PVを貼っておきます。





▼メイキング、というよりNGシーンのようなもの。
フレディが滑ってコケます(笑)




▼BBC版のSpread Your Wings(音源)
ロックなアレンジで、後半のピアノは前向きな雰囲気。
ねこあるきはお気に入りです。










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11 件のコメント:

  1. まるで小説を読んでいるみたいなすばらしい訳ですね。
    サビのところへすごく自然につながっているのが驚きです。

    メイキングも面白いですね。
    フレディは人の手袋は使うし、酒は飲むし、すごくfree manですね。

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    返信
    1. はなおのぺらさん、コメントありがとうございます。
      BBC版は、このあとサミーが羽を広げ、大空の中を羽ばたいていくイメージがあるのですごく好きです。フレディのピアノも良いし。

      PVでディーコンがピアノを弾いているのは、フレディが手袋を取りたくなかったからなんじゃないのかと勝手に思っています。
      ラッティの手袋はやたらゴツく、しかも指先が一部ボロボロに壊れているのに。よほど寒かったんでしょうね。

      メイキングのフレディはなんなんでしょうね(笑)。
      いくら寒いからと言って、お酒なんてお召しになるからズッコケるんですよ。ロジャーが一番嬉しそうです。

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  2. 高橋です、リクエストにお答え頂き、意訳をありがとうございました。
    新たにジョンの事が分かり、解説もありがとうございます。
    好きな曲ですが、他の訳で違和感があったのは、Sammyは酒場の掃除夫に雇われているのに、なぜHOTEL住まいなのか??でした。ねこあるきさんはさすがに抜け目ない訳で期待とおりです。
    PVもこの解説後に見ると、ジョンが(寒いにも関わらず、一番?)活き活きとしている様に見えます。

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    1. 高橋さん、お待ちいたしておりました。お越しいただき嬉しく思います。
      そう、サミーの「ホテル暮らし」には違和感がありますよね。高橋さんもお気づきになりましたか。
      それと、他の和訳を否定するつもりはないのですが、サミーが奴隷のように「おい小僧!」と和訳されていて、その割にはお節介な雇用主だな、と思ったので、今回の意訳になりました。
      ねこあるきはこの永遠の翼のBBC版と、メイキングでメンバーが楽しそうに笑っている雰囲気が大好きです。そしてこのあと「ウィ・ウィル・ロック・ユー」の撮影があったんですよね。長い一日です。

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    2. はじめまして。

      通りすがりのものです。

      Keep yourself aliveの訳からきたのですが、この曲の訳もとても心のこもった素晴らしい訳ですね。

      サミーのホテル暮らしなのですが、僕はこう想像しています。
      サミーは住み込みを条件に雇われているのではないかと。

      バー・エメラルドは場末のホテルの中にあり(併設されている)、バーとホテルの支配人は一緒で、サミーはホテルの汚い住み込み雇用者専用部屋で職場と私生活環境が同一というとても狭い世界で生きているのではないでしょうか。

      勝手な解釈ですみません。

      今後もねこあるきさんの素敵な訳を楽しみにしています。
      失礼しました。

      削除
    3. みっつさん。こんばんは、ねこあるきです。
      丁寧なコメントを、そして意訳をお気に召していただき、とても嬉しいです。

      「ホテル」は単純に「アパートメントホテル」(日本のアパートとか、レオパレスのような借り部屋)の事かな?、と思いましたが、みっつさんのご想像を拝見いたしまして、いっそうサミーの生活具合が目に浮かぶようです。

      良いですね!

      解釈に正解は無いですので、みっつさんの様にご自身の解釈をお聞かせいただけると、ねこあるきも違った角度で見ることが出来ます。
      今後も、ぜひお気軽にコメントをお寄せ下さると有り難いです。

      みっつさんに、またお越しいただけることを楽しみしております。

      削除
  3. はじめまして潤也と申します。

    横浜住みの49才です。最近クィーンの歌詞検索でお世話になってます。
    素敵な訳詞にしてくれてありがとうございます。
    作り手とファンの受け方はいろいろ解釈がありますけど良い解釈で参考になります。

    クィーンとの出会いは マカロニほうれん荘 ですが当時のコマーシャルで ノエビア化粧品のCMもよく覚えてます。 ボウィのブルージーンのあとだと思います。

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    1. 潤也さん、はじめまして。ねこあるきです。
      コメントいただき、有難うございます。

      和訳を潤也さんにお気に召していただき、本当に嬉しく思います。
      解釈に正誤もなく自由ではございますが、せめて日本語で意味が分かる和訳、を心がけております。
      ノエビア化粧品はクイーン(フレディのソロ)と言い、カルチャークラブと言い、貢献度が高いですね。

      更新の頻度がゆっくりですが、またお気軽に遊びにいらしてください。

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  4. 唐突にすみません。
    最後の台詞は、fly with me と聞こえませんか。
    since he was small は、幼い頃から、が自然かな、と。now it was time は knew it was ですかね

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  5. すみません、二回目はnowでしたね。

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  6. 僕が連れていくよ、の言葉にフレディの優しさを感じ、涙が出ます。

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